人の妻:冷笑散史 1893年(明26)三友社刊。 冷笑散史(れいしょう・さんし)とは「思ふ処」あって仮名にしたと、序文でことわっている。元々ドイツ語の原本を翻案したもので、伊藤秀雄の『明治の探偵小説』によれば、同時期に独語からの探偵小説の翻訳の多かった菊亭笑庸あたりではないか、と言及している。 タイトルの『人の妻』は、自分の恋人に親が決めた結婚相手がいるなら、その男にとっては彼女は「人の妻」となりうる訳であり、他方ではその恋人同士が駆落ちすれば逃げた女が「人の妻」になってしまうという論理を言っている。結婚話がうまく捗らない娘の父親が殺害される事件で、その捜査は地道な証拠固めで進められる。探偵方…