↓これの続き! cut-elimination.hatenablog.com ↓この本の論文を順番に読んでいくシリーズ! 分析フェミニズム基本論文集 慶應義塾大学出版会 Amazon 最終第8回はアリソン・ワイリー「なぜスタンドポイントが重要なのか」飯塚理恵・小草泰訳。 非常に難しい論文だった! まずスタンドポイント理論というのが難しいしそれを巡る論争も難しい。訳注と解説に助けられた。しかしワイリー先生が言いたいのは、スタンドポイント理論は難しいものではなくありふれているという事なのだと思う。 スタンドポイント理論について、木下頌子先生による編訳者解説から引用する。 スタンドポイント理論は、マ…
↓これの続き! cut-elimination.hatenablog.com ↓この本の論文を順番に読んでいくシリーズ! 分析フェミニズム基本論文集 慶應義塾大学出版会 Amazon 7つ目はクリスティ・ドットソン「認識的暴力を突き止め、声を封殺する実践を突き止める」小草泰・木下頌子・飯塚理恵訳。 これも前回に続き言葉は難しいけれど議論は明快だった。 前回は認識的不正義の話だったが、今回は認識的暴力である。これも認識論的な実践において立場が上の者が下の者へ何か良くない事をしてしまうケースである。 ドットソン先生はまずホーンズビーという人の会話の哲学的分析を取り上げている。前に三木那由他先生の『…
↓これの続き! cut-elimination.hatenablog.com ↓この本の論文を順番に読んでいくシリーズ! 分析フェミニズム基本論文集 慶應義塾大学出版会 Amazon 6つ目はエリザベス・アンダーソン「社会制度が持つ徳としての認識的正義」飯塚理恵訳。 この論文はミランダ・フリッカーという人の『認識的不正義』という本への反論ないし補完的議論として書かれている。『認識的不正義』は飯塚先生らによる翻訳が今度出るらしい↓。 認識的不正義: 権力は知ることの倫理にどのようにかかわるのか 作者:ミランダ・フリッカー 勁草書房 Amazon アンダーソン先生の論文は言葉は難しいが議論は平明だ…
↓これの続き! cut-elimination.hatenablog.com ↓これの論文を一つずつ読んでいくシリーズ! 分析フェミニズム基本論文集 慶應義塾大学出版会 Amazon 第5回はロビン・ゼン「イエロー・フィーバーはなぜ称賛ではないのか 人種フェチに対する一つの批判」木下頌子訳。この論文は訳者の木下先生が『すごい哲学』で紹介している。 世界最先端の研究が教える すごい哲学 総合法令出版 Amazon ついでに、デビット・ライス先生がこの『すご哲』での木下先生の紹介を取り上げて批判している。 davitrice.hatenadiary.jp ライス先生はけっこう『すご哲』に批判的で、…
↓これの続き! cut-elimination.hatenablog.com ↓この本の論文を一つずつ読んでいくシリーズ! 分析フェミニズム基本論文集 慶應義塾大学出版会 Amazon 第4回はティモ・ユッテン「性的モノ化」木下頌子訳。ユッテン先生は英国の人でこの論文は2016年となかなか新しい。しかし英国と日本、2016年と2023年現在ではけっこう状況が違うのかと思うほど実態とズレたような記述も見受けられる。 前回は番外編として江口聡先生の性的モノ化についての論文を読んで勉強した。江口先生は性的モノ化などフェミニズム・セックス哲学論文があまり実証研究やアンチ・フェミニズム的な研究を参照して…
↓これのつづきです。 cut-elimination.hatenablog.com ↓この本の論文を順番に読んでいくシリーズ! 分析フェミニズム基本論文集 慶應義塾大学出版会 Amazon なのだけれど4つ目の論文ティモ・ユッテン「性的モノ化」を読む前に、同論文が批判しているマーサ・ヌスバウム先生の論文、を紹介する江口聡先生の「性的モノ化と性の倫理学」という論文を予習で読んだので今回はそれについて。ついでにその続編の「性的モノ化再訪」というのも読んだ。ユッテン先生の論文は「性的モノ化再訪」の少し前に発表されたようだがそこでは取り上げられていない。 江口先生はブログやトゥイッターなんかで緩く啓発…
↓これのつづき! cut-elimination.hatenablog.com ↓この本収録の論文を一つずつ読んでいくシリーズです。 分析フェミニズム基本論文集 慶應義塾大学出版会 Amazon 3つ目はタリア・メイ・ベッチャー「邪悪な詐欺師、それでいてものまね遊び トランスフォビックな暴力、そして誤解の政治について」渡辺一暁訳。かっこいいタイトルのようだが深刻な意味がある。 グウェン・アラウホというトランス女性の殺害事件の分析が中心となっている。殺害した男たち(と弁護人)は、アラウホが女だと思っていたのに本当は男だったと知り、それで怒って殺したという。メディアも、それなら怒って当然という論調…
↓これの続編! cut-elimination.hatenablog.com ↓こちらの論文を読んでいくシリーズ! 分析フェミニズム基本論文集 慶應義塾大学出版会 Amazon 二つ目の論文はキャスリン・ジェンキンズ「改良して包摂する ジェンダー・アイデンティティと女性という概念」渡辺一暁訳。 前回取り上げたハスランガー先生の議論を批判する論文である。私はハスランガー先生の改訂的な定義のアプローチには、事実を歪曲する事にならないか、従属と特権という性質は妥当なのか、本当に定義の効果があるのか、人々の語の使い方を決め付けて良いのか、という点が疑問だと書いた。ジェンキンズ先生の批判のポイントはこの…
『分析フェミニズム基本論文集』なる本の論文を一つずつ読んでいくシリーズがスタート! 分析フェミニズム基本論文集 慶應義塾大学出版会 Amazon フェミニズムをちゃんと勉強しないとこの世界のスピードについていけなくなるので勉強したいと思っていた。けれども活動・運動・闘争とか実証性の乏しい社会理論とかと結びついた文章は私には読めない。と思っていたところ分析哲学の論文の邦訳を集めた本が出たのでこれ幸いと読む事にした。訳者のうち木下先生や飯塚先生は『すごい哲学』に執筆していて、それが良かったので安心した次第。 まずはサリー・ハスランガーという人の「ジェンダーと人種」(木下頌子訳)。男性・女性というジ…
読んだ本 D.パーフィット『理由と人格:非人格性の倫理へ』勁草書房 (1998) 木下頌子/渡辺一暁/飯塚理恵/小草泰『分析フェミニズム基本論文集』慶應義塾大学出版会 (2022) ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 日記 『理由と人格:非人格性の倫理へ』 本書を読んでいる途中、20分くらい意識が飛んでしまった。 最近は読書中に意識が飛ぶことが増えてきた。 そこまでして読書するかどうか、自分にも問いかけた。 ただ、読書中のうたた寝は案外リラックスになる。 意識の飛ぶ前には相当、自律神経的には良い状態なのだと思っている。 内容は面白く、今日は深読みでき…
読んだ本 シュテファン・ツヴァイク『昨日の世界 Ⅱ』みすず書房 (1999) 佐藤貴彦『男女平等は男女を幸福にしない』Parede Books (2024) ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 日記 『男女平等は男女を幸福にしない』 100ページくらい読んだあとに最後までパラパラと眺めた。 徹底的なフェミニスト批判の本であった。 部分的に、とある作家と似たようなことを書いている。 どちらが正しいことを書いているのかも、正直なところ分からない。 真実は全て、自分の目で見て、自分で考え、自分で調べて判断するしかない。 データというものは「事実」という名前…
読んだ本 ロバート・ノージック『生のなかの螺旋:自己と人生のダイアローグ』ちくま学芸文庫 (2024) 須藤靖/伊勢田哲治『科学を語るとはどういうことか:科学者、哲学者にモノ申す 増補版』河出書房新社 (2021) 木下頌子/渡辺一暁/飯塚理恵/小草泰『分析フェミニズム基本論文集』慶應義塾大学出版会 (2022) 松岡正剛/ドミニク・チェン『謎床』晶文社 (2017) プラトーン著作集『〈第6巻 第3分冊 ピレーボス〉善・快楽・魂 (櫂歌全書 18)』櫂歌書房 (2017) その他数冊 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 日記 土日ほど本を読める日はな…
読んだ本 木下頌子/渡辺一暁/飯塚理恵/小草泰『分析フェミニズム基本論文集』慶應義塾大学出版会 (2022) 池田晶子『死とは何か:さて死んだのは誰なのか』講談社(2009) 須藤靖/伊勢田哲治『科学を語るとはどういうことか:科学者、哲学者にモノ申す 増補版』河出書房新社 (2021) 岡野八代『ケアの倫理ーフェミニズムの政治思想』岩波新書 (2024) ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 日記 『死とは何か:さて死んだのは誰なのか』 メモ 「生きる」とはーー生存していること、死んでいないこと 「死ぬ」とはーー生存しなくなること、生きていないこと 「生…
マシュマロを設置したところ質問などをいただいたので、すでにキャスなどで答えたのも含めて回答します。昔のプロフ帳文化が大好きで、答えを考えるのは結構楽しかったりする。でも匿名だからといって悪口を入れてくるのはダメです……。短い人生の時間をもっと他のことに使って欲しい。 マシュマロ→茅野にマシュマロを投げる | マシュマロ Q1.ジェンダーの勉強を始めたいと思っているのですが、おすすめの入門書はありますか? A1.ジェンダーの勉強といっても、あなたの関心がどのあたりに向いているのかによっていろいろですが… ざっくりLGBTとは…みたいなところだと森山至貴『LGBTを読み解とく』、フェミニズム系では…
https://global.oup.com/academic/product/ontology-and-oppression-9780197666777 ジェンダーアイデンティティ論文などで知られるキャサリン・ジェンキンスさんの、たぶん初の単著。ジェンキンスさんは2016年の"Amelioration and Inclusion"が『分析フェミニズム基本論文集』で「改良して包摂する」として訳されているので、日本語でも触れられる哲学者ですね。 「改良して包摂する」では、ジェンダーを一種の社会階級として分析するハスランガーの議論を踏まえ、階級としてのジェンダーとともにアイデンティティとしてのジェ…
気付けばもう年の瀬になっていたので、今年の振り返りをよくある今年の○○ベスト10形式でしようと思う。年明けに向けて先週あたりに部屋の掃除と模様替えをしたんだけどかなり新鮮に感じるのでおすすめ。思ってたよりも長くなったので2,3記事に分ける。
ひれふせ、女たち:ミソジニーの論理 作者:ケイト・マン,Kate Manne 慶應義塾大学出版会 Amazon ケイト・マン『ひれふせ、女たち:ミソジニーの論理』小川芳範訳、勁草書房、2019年〔原著:Manne, K. (2017). Down Girl: The Logic of Misogyny. Oxford University Press.〕
昨日までは放送大学は特別番組で3コマ続けて放送していたけれど、今日からは平常に戻るようで1コマずつ放送するようだ。それにしてもラジオの方は聴きやすい時間帯に面白い講義を流してくれるのでおススメ! 日曜の夜はラジオで充実しよう。 6時45分~ 「世界文学古典を読む」 ギリシア以降近代までの有名な古典を解説してくれる。 8時15分~ 「文学批評への招待」 以前にも紹介したと思うけど、「詩の分析」「ナラトロジー」 「精神分析」「フェミニズム批評」「ポストコロニアル批評」を各2回ずつを含む、全15回のハイレベルの講義。丹治愛・山田広昭さん等の解説が分かりやすい。
ブランダム 推論主義の哲学: プラグマティズムの新展開 作者:白川晋太郎 青土社 Amazon 白川晋太郎『ブランダム 推論主義の哲学:プラグマティズムの新展開』青土社、2021年
日が落ちているのに明るくて夜明けみたい、とか話しながら満月に近い夜の湖にかかる橋を歩いていて、世界がこれで終わったらいいのにと『ポンヌフの恋人』を思い出しながら思っていた。四月は後半から思いがけず強制出社させられ、しかしそこに全く合理性がないためにストレスすぎて鬱々とし、勝手に在宅にして(こういうそこまで支障のなさそうな感じのちょっとしたズルでなんとかやり過ごしてきた人生だったと、高校のときたまに保健室で眠っていたのを思い出す)、母親や彼氏からよくケアされ、結局さいしょに予定されていた出社日の半分くらいで済みそうだった。出社によるストレスがどれくらい作用したのか、あるいはアケルマンの『一晩中』…