第二編 五歳から十二歳まで(体育、経験、官覚的教育) ○幼年期は既に終りを告げて、今や人生の第二期とはなつた。子供が物を云ふ様に なると泣く事が少くなるのは自然の勢で、茲に初めて子供の情意を表はす用語が変 つて来る。然し、猶此の年になつても泣く子供があつたなら、それは教育者が悪い のである。エミイルは決して泣かない。彼は痛い時には只「痛い痛い」と云ふばか りである。若し子供が転んで頭を打つたり鼻血を出したり、指先を切つたりする様 な事があつた場合には、すぐと駆けつけないで、暫くなりと動かないで居なければ ならぬ。子供が怪我をした時には、此方の挙動一つで思ふ通りになるので些少の苦 痛に打勝ち猶進…