川端康成の文章は映画的だ、映像が脳裏に浮かんでくる、といわれます。*1 これなんか正にそうですね。 化粧と口紅 川端康成 上野駅。 そこに発車を待っている汽車で、留伊子達のレヴュー団は旅立つのだった。 陸橋の上からは、そのトタン屋根から頭を少し出した機関車だけが見えて、プラット・ホームのあわただしい下駄の音が聞えて来た。 彼女は上野公園を歩いているうちに、早く約束の陸橋へ来てしまったのだった。 夏子は足の下まで、白い煙にもうもうとつつまれてしまった。 「煤煙(ばいえん)くさい天女、虹のかけ橋か紫の雲のかわりに、コンクリートの橋に乗った。」 そんなことを思って笑いながら、しかし、目も細めず、息も…