近所で時々煙の立つのを、 これが海人《あま》の塩を焼く煙なのであろうと 源氏は長い間思っていたが、 それは山荘の後ろの山で柴《しば》を燻《く》べている煙であった。 これを聞いた時の作、 山がつの 庵《いほり》に 焚《た》けるしば しばも言問ひ 来なむ恋ふる里人 冬になって雪の降り荒れる日に 灰色の空をながめながら源氏は琴を弾いていた。 良清《よしきよ》に歌を歌わせて、 惟光《これみつ》には笛の役を命じた。 細かい手を熱心に源氏が弾き出したので、 他の二人は命ぜられたことをやめて琴の音に涙を流していた。 漢帝が北夷《ほくい》の国へ おつかわしになった宮女の琵琶《びわ》を弾いて みずから慰めていた…