ピアノやヴァイオリンは本当に素敵だと思うけれど、私には手が出なかった。 あくせく働くだけの私には、今まで、口笛をものにするのが精一杯。 もちろん、それとてまだ名人芸からは程遠い。何しろ芸術は長く、人生は短し、だ。 でも、口笛一つ吹けない人は可哀想だ。私など、おかげでどんなに多くを手に入れたことか。 前々から、私は堅く心に決めたものだった、この道一筋、一段また一段と上っていこうと。 目指す究極の心境は、自分も、あなた方も、世間の人たちも、みんな、口笛で吹き飛ばせるようになること。 ⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄ これは、ヘルマン・ヘッセの「口笛」という詩だ。この詩…