六条わたりの御忍び歩きのころ、 内裏よりまかでたまふ中宿に、 大弐の乳母のいたくわづらひて尼になりにける、 とぶらはむとて、 五条なる家尋ねておはしたり。 御車入るべき門は鎖したりければ、 人して惟光召させて、 待たせたまひけるほど、 むつかしげなる大路のさまを見わたしたまへるに、 この家のかたはらに、 桧垣といふもの新しうして、 上は半蔀四五間ばかり上げわたして、 簾などもいと白う涼しげなるに、 をかしき額つきの透影、あまた見えて覗く。 立ちさまよふらむ下つ方思ひやるに、 あながちに丈高き心地ぞする。 いかなる者の集へるならむと、 やうかはりて思さる。 御車もいたくやつしたまへり、 前駆も追…