春はとりとめもなく… 前々夜の嵐を耐え抜いて、木々が白の衣装を纏い始めた。枝垂れ桜の花びらの下で子どもたちが遊具に歓声を上げる。儚さを知るがゆえに、今のいのちの輝きがまぶしい。 田園地帯を歩いてみる。こちらでは菜の花が満開だ。青い空から、雲雀らがヴィオラのような音色を降り落としている。水路では、力を取り戻した野の鯉が人影に驚いて、勢いよく水を切っていく。平和とは、空と土と水と空気に満ちるものである。 ふと、マウリポリという言葉が浮かぶ。戦争がなければ知るはずもなかったウクライナの小都市の名が、この頃耳について離れない。マウリポリ、マウリポリと二度呟いてみる。その空にはミサイルが飛び交っていない…