朝9時、不動産屋に関係者全員がそろった。 これで本当に実家を手放してしまうのかと思うと、少し緊張した。 そんな空気を察したのか、不動産屋さんは雑談から始めた。話題は、買い手さんが生業にしている林業のことだった。買い手さんは熊に遭遇したことがあるという体験談を披露した。不動産屋さんは、猟銃を持って山に入ったが、ウリ坊が撃てなかったという体験を語った。そんなことでいつの間にか20分が経過していた。 「それでは」と場が改められた。 「重要事項説明書の説明から始めます」 不動産屋さんが1頁目の冒頭から読みあげ始めたので、「何時間かけるつもり?」と不安になったが、すぐに要点だけの説明に切り替わった。 重…