『四又の百合』は大正12年(1923)後半に清書されたと言われている短編の童話である(原,1999)。この童話には「まっ白な貝細工のやうな百合の十の花のついた茎」という不思議な1茎の百合の花が登場する。多分,この「十の花のついた茎」とは童話の題名にもなっている「四又の百合」のことだと思われる。本稿(1)は,「十の花」を付け「四又」と呼ばれるのに相応しい百合の花が実際に自然界に存在するのかどうか検討する。 この百合の花は,2億年前のある国の王がこの国を訪れる〈正徧知(しょうへんち)〉に「布施」として献上するものである。〈正徧知〉とは仏教の開祖である〈釈迦〉のことで,この童話は古代インドの説話集『…