梶井基次郎の「城のある町にて」という小説を読んだのは、たぶん高校生のときで、以来、同じ作家の「檸檬」などは何度か読んだかもしれないが、この小説は読み直していない。ただ、坂を上ると小高い城があり、そこから遠くに花火を眺めるような場面があったことと、物語全体を覆う雰囲気が夏の夕暮れ時の、町のあちこちからまだまだ人のざわめきが消えないような、活気とともに夜に向かう少しの寂しさを纏っているような時刻を思わせるということだけがこの小説の印象だ。青空文庫で読めるから、今度ちゃんと読み直してみよう。そして、上に書いた、花火の場面と夏の夕暮れの雰囲気の二つをもって、私はずっと、素敵な小説だと思っている。読み返…