壁のしみ―短編集 (ヴァージニア・ウルフ・コレクション)作者:ヴァージニア ウルフみすず書房Amazon ヴァージニア・ウルフの代表作『燈台へ』や『ダロウェイ夫人』は、ごく平凡な日常を思わせることばで始まる。「ええ、もちろんよ、あしたお天気さえよければね」と、ラムジイ夫人が云った』(『燈台へ』中村佐喜子訳)とか、「ダロウェイ夫人は、自分で花を買ってくると言った」(『ダロウェイ夫人』近藤いね子訳)とか。 どちらの小説も特別なできごとは起こらないと言っていいかもしれない。しかし、「意識の流れ」という手法を代表する作家の一人であるウルフの小説で読者が知るのは、内的体験の起伏と陰影に富んだ世界である。…