箱根峠・鈴鹿峠とともに、東海道の三大難所と言われる、静岡県掛川市の小夜〔さよ〕の中山峠。
この界隈で13c以前、通行中の妊婦が山賊に斬り殺されたらしく、但しお腹の中の赤ちゃんだけは助かり、そのまま生まれ出た。
無念な母親は夜な夜な麦が原料の水飴を宿場で買い求め、その赤ちゃんを幽霊の身でありながら育てた。
そのうち、村人が赤児の泣き声に気づいて、墓石代りの丸石の下を掘り返してみた所、腐乱し・白骨化した死体と、その胸で泣く子供の姿があった、――というもの。
これが掛川市小夜鹿の国道1号線と、川根〜御前崎の大井川の線を交差させる交通の要衝の丸石の話である。
餅米と麦芽を一晩寝かして麦芽糖へと変化させたものを更に煮詰めて作る100%天然材料の、濃厚な琥珀〜紅茶色で素朴においしい水飴を「小泉屋」で買って、それを手に店の裏側の小ん盛りした丘山に登って、赤ん坊の泣き声を聴こう。
(ちなみにその石に触れると赤ちゃんが授かるという迷信もちゃっかり存在している。)
但しこの話には異説もあって、峠の頂上付近にある久延寺で遺された赤児を引き取ったのだという。そしたら未練がましく母親の霊が子供に取り憑いては、自分の無念さも泣いたのだという。
また似たような「夜泣石」の話は、長野県更級郡上山田町や、横浜市神奈川区の浦島寺、兵庫県山崎町上寺の妙勝寺などにもある。そして本家本元の夜泣石は見世物に江戸へ運ばれたり、贋物が現れたり、さすがに由緒を感じさせる。