對髑髏 蝸牛露伴作 (一) 旅に道連れの味は知らねど 世は情けある女の事〳〵但しどこやらに怖い所あり難い所我元來洒落といふ事を知らず數寄と唱ふる者にもあらで唯ふら〳〵と五尺の殼を負ふ蝸牛(でゞむし)の浮かれ心止み難く東西南北に這ひまはりて覺束なき角頭の眼に力の及ぶだけの世を見たく、いざさらば當世江口の君の宿假(か)さず宇治の華族樣香煎湯一杯を惜しみ玉ふとも關(かま)はじよ、里遠しいざ露と寐ん草まくらとは一歲(ひとゝせ)陸奧の獨り旅夜更けて野末に疲れたる時の吟、それより露伴と自號して、頓(やが)て脆くも下枝(しづえ)を落ちなば、摺附木となりて成佛する大木の蔭小暗き近邊(あたり)に何の功をも爲さゞ…