管啓次郎研究室主催長編文学読書会はトルストイのあとドイツ語圏に飛んだ(もうちょっとロシアの大地にとどまりたい気もしたのだが…)。『魔の山』(1924年)である。大学に入ってすぐニーチェの『ツァラトゥストラはこう言った』とともに読んだあとの高揚感を懐かしく思い出した――英雄は山を下るのだった。そのときは関泰祐・望月市恵訳の岩波文庫4分冊で第1刷が1961年。今回のテクストは高橋義孝訳新潮文庫上下2巻で、最近の改訳かと思いきや第1刷が出た1969年のままだった。最近の訳業は見当たらないようだ。1929年にノーベル賞を受賞した大作家のビルドゥングスロマンは、昨今では流行らないのだろうか。 新潮文庫版…