『獣の奏者エリン』『鹿の王』『守り人』シリーズなど、壮大なファンタジーを描く小説家上橋菜穂子の、民族学研究者としての側面を出した1冊。 とはいっても本書は研究書ではなく、その語り口は子どもでもわかるほどに平易で、しかし大人が読んでも深く楽しめる。こういう文章を書ける時点で、まずもって稀有な書き手さんだと思う。 本書の主題はオーストリアの先住民族、アボリジニだ。その中でも著者が研究のテーマとしたのは、「昔ながらの伝統的な暮らしを保った」人々ではなく、入植者とともに暮らし、街に溶け込むことを選んだ、タイトルの表現を借りれば「隣の」アボリジニたちである。外見からはまったく区別がつかず、普段の暮らしぶ…