伊藤 整(1905 - 69)『太平洋戦争日記(一)』口絵より無断切取り。撮影:平松太郎。 重苦しい空気が充満する時代。伊藤整一家は杉並区和田本町に住んでいた。 十二月一日午前。まず講師を務める日大芸術科へ出講。レポート課題を発表した直後につき、出席学生はわずか六名。外から聴講に来ている女子が一人。生花の師範とか。講義内容は葛西善藏『子をつれて』だった。 上野図書館へ行き、連載中の小説のために調べごと。勧進帳について確認したかった。河出書房へ赴き用足し一件と、印税残額百三十円を受取る。銀座まで歩き、雑貨買物いくつか。地下足袋、靴底の鋲、指を怪我した女中のためにゴムの指サックほか。いずれも商店で…