「かの大納言の御女、 ものしたまふと聞きたまへしは。 好き好きしき方にはあらで、 まめやかに聞こゆるなり」 と、推し当てにのたまへば、 「女ただ一人はべりし。 亡せて、この十余年にやなりはべりぬらむ。 故大納言、内裏にたてまつらむなど、 かしこういつきはべりしを、 その本意のごとくもものしはべらで、 過ぎはべりにしかば、 ただこの尼君一人もてあつかひはべりしほどに、 いかなる人のしわざにか、兵部卿宮なむ、 忍びて語らひつきたまへりけるを、 本の北の方、やむごとなくなどして、 安からぬこと多くて、 明け暮れ物を思ひてなむ、 亡くなりはべりにし。 物思ひに病づくものと、 目に近く見たまへし」 など…