源氏はまず宮のお居間のほうで例のように話していたが、 昔話の取りとめもないようなのが長く続いて 源氏は眠くなるばかりであった。 宮もあくびをあそばして、 「私は宵惑《よいまど》いなものですから、 お話がもうできないのですよ」 とお言いになったかと思うと、 鼾《いびき》という源氏に馴染《なじみ》の少ない音が聞こえだしてきた。 源氏は内心に喜びながら宮のお居間を辞して出ようとすると、 また一人の老人らしい咳をしながら御簾《みす》ぎわに寄って来る人があった。 「もったいないことですが、 ご存じのはずと思っておりますものの私の存在を とっくにお忘れになっていらっしゃるようでございますから、 私のほうか…