高杉一郎は『ザメンホフの家族たち』の「中野重治」、『往きて還りし兵の記憶』の「務台理作と中野重治」「その後の中野重治」において、いずれも主として前者は戦前、後者は戦後の中野に関して言及している。ここでは戦前の中野にふれてみる。 高杉は中野が「なつかしい作家」「同時代の作家」で、「中野文学の愛読者」であると書き出している。その中野に会ったのは高杉が『文芸』の編集者になってからのことだった。 中野さんの作品のなかでも私がとくにすきな「空想家とシナリオ」は、もっとずっとあとになってから、やはり私たちの『文芸』のために書いてもらった作品である。いろいろな作家の生活をのぞき歩いている編集者のひとりとして…