昔から、「山官」という言葉があった。 誰がつけたか知らないが、山を守り木を育てる者の純朴な、また一歩ずつ踏みしめて行く地道さを端的に表した親しむべき愛称である。 山へ行けば空気もうまいし水も清らかで、本当に身も心も洗い清められる。この清純な環境はすべての人のあこがれであり、自然を愛することは人間の本能的な欲望でもある。 私どもが駆けだしの頃は 「木と話が出来なければ一丁前の山官とは言えない」 とハッパをかけられ、また、その通りに努力したものである。 「人間社会の複雑さに災いされず、山官になった我々こそ最も幸せだ」 と自惚れていたのも昔の夢物語となった。 されど、純朴だけが全てではなかった。 あ…