さらに奥へ― 猟師さんが「こっちに来るかも」と言っていた猟犬の吠える声が聞こえてきた。注意して耳を立てると、それとはまた別に、何者かがガサガサッと草の中を駆ける音も交じっている。『近いけど、まだ遠いな』と思った時、ふたつの音は私たちの左側の谷底に落ちていった。そして、2度目の銃声が後方麓から響く。あ、他の人が獲ったんだ。確かにいた、すぐそこに、鹿が。でもその姿を拝むことは叶わなかった。諦めのような、少しばかりの悔しさが胸ににじむ。 連れて帰ろうと、さっきの犬の名前を猟師さんが呼ぶ。が、なぜか犬はくるりときびすを返して再び森の中へ消えていった。とりあえず、猟師さんは私たちにも状況がわかるように無…