古書店さん関係者や愛書家のあいだで交される、いわば業界用語のひとつに「黒い本、白い本」という言葉がある。店内の色調や空気感に由来する言葉だそうだ。 日本文学を例にとると、井伏鱒二や川端康成の著書を棚にぎっしりと詰めてある書店があったとして、たとえ刊行時には洒落た明るい色調の本たちだったとしても、経年変化によって、自然の色褪せや黒ずみは避けられず、棚全体が鈍い色合いとなる。店全体の印象も、いくら蛍光灯を LED 照明に換えたところで、どっしりと重いものとなる。 いっぽう文芸批評家や研究者による井伏鱒二論や川端康成研究を、漏れなく取揃えてある古書店もある。井伏・川端当人の著書は置かない。現代に近い…