いま、拠って立つべき〝日本の精神〟 武士道 新渡戸稲造著/岬龍一郎訳 第一版の序文 十年ほど前、私がベルギーの著名な法学者ド・ラヴレー氏の家に招かれ、歓待をうけて数日を過ごしていたときのこと。ある日の散歩の途中で、宗教の話題が出た。 「日本の学校では宗教教育がない、とおっしゃるのですか」と、この尊敬すべき教授が尋ねられた。私が「ありません」と返事をすると、教授は驚いて、突然立ち止まり、ビックリするような声で再度問われた。 「宗教教育がない! それではあなたがたはどのようにして道徳教育を授さずけるのですか」 私はその質問に愕がく然ぜんとし、すぐに答えることができなかった。なぜなら、私が子どものこ…