御局は桐壺なり。 あまたの御方がたを過ぎさせたまひて、 ひまなき御前渡りに、 人の御心を尽くしたまふも、 げにことわりと見えたり。 参う上りたまふにも、あまりうちしきる折々は、 打橋、渡殿のここかしこの道に、 あやしきわざをしつつ、 御送り迎への人の衣の裾、 堪へがたく、まさなきこともあり。 またある時には、 え避らぬ馬道の戸を鎖しこめ、 こなたかなた心を合はせて、 はしたなめわづらはせたまふ時も多かり。 事にふれて数知らず苦しきことのみまされば、 いといたう思ひわびたるを、 いとどあはれと御覧じて、 後涼殿にもとよりさぶらひたまふ更衣の曹司を 他に移させたまひて、 上局に賜はす。 その恨みま…