【平家物語42第2巻 徳大寺の沙汰】 そもそも成親卿が平家滅亡の計りごとを練るようになったのは、 いつかの人事異動が基であったのだが、 あの時に、やはり、右大将を平宗盛に横取りされて、 がっかりして家にひきこもってしまった人がある。 徳大寺大納言 実定《じってい》である。 その後も、 平家専横の世の中にいよいよ愛想をつかした実定は、 出家の志を立てた。ある月の良い晩であった。 実定は、 南面の御格子《みこうし》をあげて月を眺めながら、 行末のことなど思いふけっていると、 藤大夫重兼《とうのだいふしげかね》という家来が参上してきた。 「何じゃ、今時分?」 「いえ、唯、余りに月がよろしいので、 何…