はじめに 扶桑社ミステリーのホラー、『殺戮の〈野獣館〉』(以下『野獣館』)を読んだ。これは勝手な印象だが、扶桑社のホラーは他の出版社のホラーと比べ、アクの強さに定評があると思っている。ケッチャムしかり『ブッカケゾンビ』(未読)しかり。 悪趣味な描写や展開、テーマの数々に良識的で善良な人々は眉を顰めるだろうが、こうしたジャンクフードを超えたゲテモノ(誉め言葉)の味わいは、一部の好事家にとっては得難い珍味となる。 リチャード・レイモンの『野獣館』もまた、大手を振って名作・傑作の類だと喧伝するのは憚られるものの、好きな人は好きであることは疑い得ない、そんな作品となっている。物好きたちが日陰でひっそり…