(犯人は伏せていますが、推理部分について詳しく紹介していますので、未読の方はご注意ください。) エラリイ・クイーンの全著作中、最大の驚きは『ガラスの村』(1954年)[i]だろう。処女作から25年。四半世紀を迎えたところで、ついにクイーンはクイーンを見限った。 といっても、エラリイはレーン先輩のあとを追ったわけではない。主役の交代である。アメリカの田舎町、ライツヴィルより、はるかに鄙びた、むしろ小集落というべきシンの辻(ライツヴィルに近いらしい[ii])を舞台に、戦争(第二次大戦と朝鮮戦争)帰りのジョニー・シンという青年が、年長の従兄のシン判事とともに、平和な共同体に起こるはずのなかった無慈悲…