2015年に新潮社から単行本の初版が出ている。文庫になったのは2018年だ。全く知らなかった。当時は話題になったんだろうか。それとも、もう事件そのものの関心が薄れて本書もさほど話題にならなかったのだろうか。 この本は、小説である。つまりフィクションだ。が、たぶん限りなくドキュメントに近いフィクションなのだろうと思う。フィクションにしたのは、警察が出した食事が、カツ定食のところをうな重にしたところくらいじゃないか、と思えてしまう。 薬物中毒の専門家である医師と警察がどのようにして加害者の犯罪の証拠を積み上げていったか、というプロセスは専門性の高い記述も多く、退屈してもいいはずだが、ぐいぐいと読ま…