爆撃機の一種。本来は戦略爆撃を行うための爆撃機だった。核戦略について論じる文脈からは、戦略核三本柱(トライアド)の一本として用いられることが多い。
核ミサイルの出現によって有人爆撃機は時代遅れのものになった等の主張は一時は大いに盛り上がった。が、結局は現在まで廃止されていない。
結局のところ、戦争は政治の延長であり、一般には狂気の沙汰だと考えられている核戦争においてもそれは例外ではない。最高統帥の指揮を受ける制御可能な兵器の方が、「手段」としては優秀であり、この点から考えれば、人間が操縦して目標を選択可能な戦略爆撃機の価値は絶大なものになる。
そもそも政治の延長であるのならば、段階的な「演技」も必要不可欠であり、この点でも爆撃機はICBMを遙かに超える表現力*1を有する。
また、それらの要素を考慮しない、本気の全面核戦争を行う場合でも、爆撃機とICBMが併存していることは大きなメリットを生む。
爆撃機の発進基地には滑走路という隠しようのない巨大な目標物が必要不可欠であり、したがって先制核攻撃を受ければ簡単に無力化されてしまう。一方ICBMの発射サイロは硬化目標であって、大威力かつ高精度のICBM(か、爆撃機)以外の攻撃では破壊されないことになっている。
さて、全面核戦争の当事者たる米ソの間には北極海(とカナダ)が横たわっており、仮にクレムリンの地下壕だかジグリだかで書記長が決断を下してICBMを発射させても、NORADはたちどころにそれを探知してしまい、ICBMがのんびり*2飛行している間にSACの戦略爆撃機部隊を基地から出撃させてしまうだろう。
では仮にアメリカ近海に送り込んだ潜水艦からのSLBM攻撃で核戦争の口火を切ったら? この場合は、戦略爆撃機に緊急出撃のいとまを与えずに航空基地を破壊できると考えられていた。しかし、繰り返しになるが、ICBMの発射サイロをSLBMで破壊することはできない。したがってアメリカのICBM群は、爆撃機の犠牲と引き替えに任務を遂行できることになる*3。
なお、B-52やTu-16のような低速・鈍重な爆撃機が防空網を突破して戦略目標を攻撃できるのかという議論は常にあったが、ICBMが雨霰と降ってきて指揮系統や軍事施設が片っ端から蒸発している状況下では、防空網も麻痺状態に陥っていると考える方が自然ではある。