大学3年生になると、法学部では、外国法を1つ勉強することになっていた。 普通は、わりと楽な『イギリス法』を選択するのであるが、悪友のひとりSは『ドイツ法』を選択したのである。 Sの性格は粘り強く、問題解決にあたっては、ひとつひとつ論理を積み重ねてゆくというタイプである。 具体的にいえば、レンガ壁を作るとき、設計図にしたがって、レンガをひとつづつ吟味してまず載せてみてあちこちから見て納得がいったらセメントで固めてゆくという学生である。 決して、頭が悪いわけではない。むしろ、頭は良い方だといえる。そのSが、法学部の若手ホープF講師の、手形小切手についての論文を読む『ドイツ法』を選択したのである。 …