拳闘士の休息 :トム・ジョーンズ,岸本 佐知子|河出書房新社 (kawade.co.jp) ベトナム戦争、ボクシング、癇癪、精神病にまつわる怒りとパワーが充満した短編集である。 ひとつとっても相当ヘビーだが、初っ端から全てを詰め込み読者にも自分にも放たれる破壊力に圧倒される。 最初の噴火から次第にトーンは表面上落ち着いていくが、いつ攻撃に転じてもおかしくない煮えたぎるマグマが見え隠れする。 その叩きつける筆圧を楽しむ種の小説。
試合開始はいつも午前3時だった 父にアメリカ産の安ウォトカを奪われたそのとき 無職のおれはやつを罵りながら 追いまわし 眼鏡をしたつらの左側をぶん撲った おれの拳で眼鏡が毀れ おれの拳は眼鏡の縁で切れ、血がシャーツに滴り、 おれはまた親父を罵った 返せ! 酒を返せ! おれの人生を返せ! おまえが勝手に棄てたおれの絵を、おれの本を、おれのギターを! 凋れた草のような母たちが、姉と妹たちがやって来て、 アル中のおれをぢっと眺めてる おれはかの女らにも叫ぶ おまえらはおれを助けなかったと おれが親父になにをされようがやらされようが助けなかった! だれがおまえらの冷房機を、室外機をと叫んだ おれは姉に…