169.『友達』(2)――原初に失敗ありき 二郎の失言群にはかなりのボリュームの導入部がある。 「①好い奥さんになったね。あれなら僕が貰やよかった」「冗談いっちゃ不可ない」と云って岡田は一層大きな声を出して笑った。やがて少し真面目になって、「だって貴方はあいつの悪口をお母さんに云ったっていうじゃありませんか」と聞いた。「何んて」「②岡田も気の毒だ、あんなものを大阪下り迄引っ張って行くなんて。最う少し待っていれば己が相当なのを見付てやるのにって」「そりゃ君昔の事ですよ」 斯うは答えたようなものの、自分は少し恐縮した。且一寸狼狽した。そうして先刻岡田が変な眼遣をして、時々細君の方を見た意味を漸く理…