昭和十三年度末に、どうせ教職に就くなら勉強しておこうと、専攻科へ入学することにした。 昭和十四年(一九三九)には、日本軍は海南島に上陸し、陸軍大将の阿部信行内閣が成立、海軍中将の平賀譲が東大総長に就任して、その上申によって河合栄治郎、土方成美の両教授が休職処分になるなど、内外の情勢は軍部の台頭へと激しく動いていた。 専攻科では概して冷静な講義が行われていたが、目には見えない言論統制に、先生方も慎重にならざるを得なかっただろうと思った。 兵役と勤務から解放されて、自由な思索にあこがれて入学した専攻科であったが、すでに戦時体制への切り換えが急を告げているときで、自分が求めた学生生活と実社会の動向と…