高井有一(1932 - 2016)『新潮現代文学74 高井有一』より無断で切取らせていたゞきました。 高い処から物を云うようではしたないが、用語用字に疑問のない作家、昭和・平成で日本語がもっとも安定していた作家はと問われると、この人を想い出す。 純文学一本で生涯ブレのない、玄人受けの地味な寡作小説家と、高井有一は思われているかもしれない。いかにもさようと見えて、寡作という点だけは当っていない。数えてみると、作品は少なくない。濫作期こそなかったが、生涯途切れることなく孜々として書き抜いた作家だ。 父は画家田口省吾。祖父は明治の小説家・劇作家にして美術評論家の田口掬汀。大正・昭和期には美術界の人と…