「暮れまどふ心の闇も堪へがたき片端をだに、 はるくばかりに聞こえまほしうはべるを、 私にも心のどかにまかでたまへ。 年ごろ、うれしく面だたしきついでにて立ち寄りたまひしものを、 かかる御消息にて見たてまつる、 返す返すつれなき命にもはべるかな。 生まれし時より、 思ふ心ありし人にて、 故大納言、 いまはとなるまで、 『ただ、この人の宮仕への本意、かならず遂げさせたてまつれ。 我れ亡くなりぬとて、 口惜しう思ひくづほるな』と、 返す返す諌めおかれはべりしかば、 はかばかしう後見思ふ人もなき交じらひは、 なかなかなるべきことと思ひたまへながら、 ただかの遺言を違へじとばかりに、 出だし立てはべりし…