🪷命婦は、 「まだ大殿籠もらせたまはざりける」と、 あはれに見たてまつる。 御前の壺前栽のいとおもしろき盛りなるを御覧ずるやうにて、 忍びやかに心にくき限りの女房四五人さぶらはせたまひて、 御物語せさせたまふなりけり。 このごろ、明け暮れ御覧ずる長恨歌の御絵、 亭子院の描かせたまひて、 伊勢、貫之に詠ませたまへる、 大和言の葉をも、唐土の詩をも、 ただその筋をぞ、枕言にせさせたまふ。 いとこまやかにありさま問はせたまふ。 あはれなりつること忍びやかに奏す。 御返り御覧ずれば、 「いともかしこきは置き所もはべらず。 かかる仰せ言につけても、かきくらす乱り心地になむ。 荒き風ふせぎし蔭の枯れしより…