大学生時分の長話をしよう。昼ご飯の後、丁は親戚からアウトドア用の四輪駆動車を借りてきた。「山奥に入るのでな」まるで蜂の巣駆除業者ような恰好をして、丁はハンドルを握った。いかにもファッションに拘りのありそうな女性だったが、稗苗の里という古巣では気にしないらしい。安全運転で山道をゴトゴトと揺られる事、ニ十分余り。立入禁止の立て札と、杭に有刺鉄線が巻かれた横道が現れた。側の拓けた場所に車を停めて、丁は、「鉄線には気をつけるんじゃ」と言いながらそれを跨いだ。そして奥へと続く山道の草むらを指さす。「この辺りは地面にトラバサミが設置されているからの。儂の歩いたところだけを踏んで進め」「物騒だ」「田舎なんぞ…