作家や編集者が題材になったお仕事ドラマはよくあるが、本書はさらに裏方の印刷・製本に携わる人たちが主人公の物語である。印刷・製本というと、出版のプロセスでいうと最終局面で、締め切りぎりぎりになってようやく入稿した原稿を、無理を言って深夜まで待たせていた印刷所に持ち込み、危機一髪、間に合わせる、というような場面で登場することが多い。往々にしてドラマはそこで終わる。次のシーンでは無事に刊行された書籍だか雑誌だかを主人公が満足そうに眺めている、という大団円につながっていく。 この小説では、ふつう描かれることのない印刷会社が舞台になっている。冒頭、主人公は、「印刷会社は本造りのメーカーだと思っている」と…