渡辺龍策先生との出会いは、筆者が20代中ごろのことである。長兄を介して、先生と知り合うことができた。先生とは栄にあるホテルの地下のラウンジバーでお会いして、よく話をした。このバーへ、先生はほぼ毎日通っていた。 先生は戦前・戦後初期までに通算25年の中国滞在歴で、そこで知り合った人々との交流談や中国政治社会、中国の食文化、演劇、文学、歴史、華北の街々、新刊書の構想などに話を咲かせた。袁世凱、伊達順之助、小日向白郎、川島芳子、村上知行などの名前も話題に登場した。先生の御尊父渡辺龍聖氏は東京音楽学校校長、東京高等師範学校教授、小樽高等商業学校校長、名古屋高等商業学校校長などを歴任し、後に袁世凱の学事…