津本 陽『柳生兵庫助』(文春文庫) チャンバラはほんとうにチャンチャンバラバラと、やったものだろうか。 「刃向う者あらば斬って捨てるもよし。ただし此度の出役においては敵すこぶる数多にて、いちいち深手を負わするに及ばず。指一本なりとも斬り落して、刃向う力を削げば、それでよしとする」 『鬼平犯科帳』において、ある捕物に出陣する同心一同に発した、長谷川平蔵の訓示である。どの『忠臣蔵』だったかで、吉良邸討入り直前の大石内蔵助も四十六人を前にして、同様に訓示していた。いずれにおいても脚本家なり監督なりが、チャンバラ娯楽の奥に、お約束でないリアルな戦闘模様の裏打ちを敷こうと意図したからこその台詞だったろう…