黒牡丹:根本吐芳 1903年(明36)青木嵩山堂刊。 日清戦争講和後の清国における混乱した政変の動きを遠景に、若い男女の活劇譚を描く。ヒロインの英子は政争で日本に亡命した清国人夫婦の子供で、両親の死後養親に育てられ、表面上は日本女性と変らない。彼女が神戸で出会うのは清国人のような辮髪と支那服の青年だが、日本語をネイティブに話す。彼は日本人だが、逆に清国人に育てられたことがわかる。彼と別れた後、英子は養親の家から追われるように逃げ出し、金も持たず、頼る先もない孤立無援の境遇に陥る。不運と幸運とが入り交じる物語の運びは、妙齢の女性には苛酷だが、格調高い美文調の叙述とともに面白く読むことができた。☆…