5.恋物語 1)恋物語が挿入されているのはなぜか 賢治が童話『烏の北斗七星』に恋物語を挿入したのは,賢治自身がこの童話の初稿を書いたとされる日(1921.12.21)からこの童話が掲載されている童話集『注文の多い料理店』の印刷(1924.11.10)までの間に恋と破局を経験していたことと関係があると思われる。 花巻の賢治研究家である佐藤(1984)によれば,恋人は,賢治と同じ花巻出身(賢治の家の近く)で,小学校の代用教員をしていていた。二人の出会いは,大正10年(1921)十二月の賢治と友人の藤原嘉藤治が開催したレコード鑑賞会で,恋人はこの鑑賞会に参加していたという。賢治より4歳年下の背が高く…