けこの偉大なる真理をよけいに蔵しているのである。なぜなれば、彼らのうちでも金のある富農《クラーク》や百姓泣かせの連中は、すでに大多数堕落しているからである。これは主として、われわれの不注意、不行届きから起ったことである! しかし、神は自分の赤子《せきし》を救って下さるに相違ない、なぜならば、ロシヤの偉大はその謙抑に存するからである。余は空想の中にわが国の未来を見る。いや、もう現に明らかに見えるような思いがする。すなわち、最も堕落せる富者さえも、ついにはおのれの富を恥ずるようになる。すると、貧者はこのへりくだった態度を見て、その心持を理解して彼に譲歩し、悦びと愛をもってその美しき羞恥に答えるであ…
ごとくこの理想一つを目ざして突進しないわけにゆかなかった。それゆえ、ときどきその他の一切を忘れてしまうことさえあった(後に自分で気がついたことであるが、彼は前日あれほどまで心配した兄ドミートリイのことを、この苦しい一日の間すっかり忘れていた。それから、もう一つ、昨日あれほど熱心に意気込んでいた、イリューシャの父に二百ルーブリ届けるという計画も、同様に少しも思い出さなかった)。しかし、彼に必要なのは、繰り返して言うが、奇蹟ではなく『最高の正義』であった。ところが、この正義は無慚にも破られた、と彼は思いこんだ。これがために、彼の心はふいにむごたらしく傷つけられたのである。この『正義』が、アリョーシ…