田舎の家の、続く二間が見渡せる。縁側があり、沓脱ぎの石が据えられている。このセットがさ、なんか温(ぬく)いの。陽射しで縁側と石が暖められているのが感じられる。客入れ中ずっとかかっているのは、「カチューシャの歌」や、「宵待草」で、ここに「ケエツブロウ」を劇的に読む野枝(那須凛)の声が被ることで、彼女の出自が大体わかる。温和な、すこしいい家庭で、センチメンタルな大衆の歌を聴いて育った子だ。アナーキストの伊藤野枝、関東大震災で虐殺されてしまったことで知られる彼女が、福岡の海近くの実家に帰ってくる。その何回かの帰省と、田舎に暮らす家族たちの物語である。 十代で、婚家から逃げかえってきた野枝は、いかにも…