(本書のトリック等について言及しています。) 『不死蝶』[i]は、横溝正史の長編小説のなかでも、いろいろな意味で興味深い作品といえる。1953年に雑誌『平凡』に半年間連載され、1958年に長編化のうえ刊行されたが、『平凡』での連載というのがまず珍しい。しかも、連載途中から「犯人当ての懸賞」がかけられることになったらしい[ii]。当初からの予定ではなかったのかもしれないが、同じ1953年には中編の「湖泥」でも犯人当ての挑戦形式を取っている。こちらは広く読者に解答を募るのではなく、花森安治他の著名人三氏の解答を掲載するという方式であった[iii]。 横溝正史の戦後長編では、最初犯人を特定する推理に…