(本書および原型短編の犯人、トリック等を明かしています。) 『夜の黒豹』は、1963年3月号の『推理ストーリー』誌に掲載された「青蜥蜴」[i]を改稿して1964年8月に東京文藝社より刊行された[ii]。いわゆる横溝正史の長編化書下ろし作品の事実上の最終作である。 「事実上」と、わざわざ断ったのは、このあと1975年に同じ東京文藝社から『迷路荘の惨劇』が出版されているからである[iii]。しかし、『夜の黒豹』との間には十年余の空白があり、『惨劇』を一緒くたにはしにくい。1956年の『毒の矢』から始まった横溝の「中短編の長編化」シリーズは、ひとまず本書で終わって、『迷路荘』は番外編のようなものとい…