(本書および短編の「百唇譜」の犯人その他について、またジョン・ディクスン・カーおよび高木彬光の長編小説のトリックについて注で触れていますので、ご注意ください。) 「百唇譜」などという、いかにもエロティックでいかがわしくて、読まずにいられないタイトルの短編が書かれたのは1962年1月で、その10か月後には、長編に書き伸ばした『悪魔の百唇譜』が東京文藝社から出版された。 同社からは、「続刊金田一耕助推理全集」が1961年に第10巻『獄門島』まで刊行されたあと、翌年、『貸ボート十三号』を皮切りに五冊の横溝作品集が公刊されているが、唯一新作長編として出たのが本書だったようだ[i]。他の四冊に収録の諸編…