(本書の犯人、トリック等のほか、『獄門島』、『犬神家の一族』、『白と黒』、『仮面舞踏会』、『悪霊島』の基本アイディアに触れていますので、ご注意ください。) 劇的で意表を突く場面から始まるのは娯楽小説なら普通のことで、作家が一番頭をひねるところでもあるだろう。横溝正史の小説も初っ端から突拍子もない場面で読者の度肝を抜く場合が少なくない。しかし、『死神の矢』[i]となると突拍子もないどころではない。常識を超えすぎている。 美しい令嬢の求婚者たち三人が、波間に漂う的をめがけて弓を射って、見事射止めたものが彼女と結婚することができるというのだから、いつの時代の話だよ、と眼を疑う。 そんな、とんでもない…