(本書の内容やトリックのほか、『神の矢』、「黒い翼」、『白と黒』などの長編短編小説、および、アガサ・クリスティの長編短編小説、ある古典的な密室ミステリのトリックに触れています。) 『毒の矢』(1956年)は、昭和30年代に横溝正史が力を入れた仕事である「中短編の長編化」あるいは「書き下ろし長編」の最初の作品である。 「力を入れた」といっても、これが積極的に取り組まれたものだったかどうかは疑わしい。昭和20年代は連載長編が基本で、書き下ろしの長編小説はない。現代とはおよそ異なる出版事情の時代だから、横溝だけの特徴ではないが、30年代に入ると徐々に書き下ろし長編ミステリのシリーズが出始める。『仮面…